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キーワードは「停滞と変化」――2009年のモバイル業界を振り返る(COLUMN)
 2009年も、あと少しで終わろうとしている。
 これはモバイル業界に限ったことではないが、2009年の市場環境はとても厳しいものだった。リーマン・ショック後の景気後退と需要急減の余波は収まらず、筆者のもう1つの専門分野である自動車業界では、「100年に1度の不況」があらゆるスピーチの枕詞になるありさまだった。 モバイル業界を見ても、端末販売市場は全体的に冷え込み、キャリア間の競争も盛り上がりに欠けた。特に2009年前半は多くのユーザーが端末買い替えサイクルの狭間に入ったこともあり、市場全体に停滞感や閉塞感があったのは事実だろう。
 しかしその一方で、新たな変化の兆しが見られたのも事実だ。キャリア各社は2010年以降に向けて新たなサービスやビジネスの種をまき、次世代に向けた新サービスもいくつか提案された。逆風下の端末市場でも、「iPhone 3GS」の躍進やAndroid端末の登場、モバイルデータ通信端末の販売数がかつてない伸びを示すなど変化が起き始めている。
 2009年はどのような年だったのか。そして2010年はどのような1年になるのか。筆者の率直な感想と評価を述べたい思う。
安定基盤の下に、種蒔きに成功したドコモ
 NTTドコモの山田隆持社長は、2009年を評して「種蒔きの年」と語った。まさに今年のドコモは、解約率の低さに支えながら、種蒔きに終始していたといってもいいだろう。
 まず足元の競争環境で見れば、2009年はドコモの「2年契約割引(ファミ割MAX50/ひとりでも割)」と、販売規模の多かった905iシリーズの「2年割賦払い」というダブルの“2年縛り”が明ける直前に位置し、それが解約率の驚異的な低さにつながった。さらにドコモはこの数年間、携帯電話キャリアにとって重要な「インフラ強化」を地道に続け、同社のFOMAインフラはエリアの広さ・通信品質のよさで随一のものになった。
 端末ラインアップをつぶさに見れば、ドコモの競争力が圧倒的というわけではないのだが、それでもドコモが安定的な成長ができたのは、料金プラン・販売モデルによる囲い込み効果と、インフラ力による安心感からくる解約抑制効果によるものが大きい。そして、この“足元の安定”により、ドコモは2009年、大小様々な未来への投資を行った。
 それらの種まきの中で、もっとも重要なものが「オートGPS対応iコンシェル」と「スマートフォン」だろう。
 iコンシェルは従来のiモードの延長線上に位置するが、そのコンセプトやサービス内容は時代を先取りしている。今後のモバイルインターネットでは「リアル連携」を軸に、コンテンツやサービスの洗練された提供が重要になる。iコンシェルではGPSや非接触IC(おサイフケータイ)を用いて、そこに独自のアプローチをしている。これはAppleやGoogleのモバイル戦略と並んで、注目の取り組みだ。
 iコンシェルはまだ発展途上であり、PC向けWebサービスとの連携の弱さや、オートGPS対応iコンシェルに対応したモデルが主力のSTYLEシリーズに少ないなど、課題も多く残されている。また後述するスマートフォン分野ではなく従来型の携帯電話向けサービスのため、「海外市場への発展性はあるのか。またもや日本固有のサービスでメーカー・コンテンツプロバイダーの負担になるのではないか」という不安や批判も生じるだろう。来年、ドコモはこれらの問題をいち早く解消し、iコンシェルの可能性を引き出す必要がある。
 一方、スマートフォンについてもドコモは積極的だ。同社はiPhoneの販売権を逃して以降、この分野で後れを取っているが、国内初のAndroid端末である「HT-03A」や、「T-01A」を始めとする多数のWindows Phoneラインアップの投入、さらにはRIMの「BlackBerry Bold」を拡販するなど、今年はスマートフォン重視の姿勢をさらに強くした。またiPhone 3GSの好調ぶりに経営陣は神経をとがらせており、山田社長が会議で「なぜ、うち(ドコモ)のスマートフォンはiPhoneに負けるのか」と檄を飛ばすことが度々あったという。
 このようにドコモはスマートフォンを重視してはいるものの、Appleとソフトバンクモバイルの「iPhoneタッグ」に結局は勝てなかった。その原因の1つは“iPhone並みに魅力的なスマートフォンを獲得できなかった”ことにあるが、一方でドコモが従来型の携帯電話ラインアップに配慮し、ソフトバンクモバイルがiPhoneに対して行ったほどの厚遇を、自社のスマートフォンに向けられなかったことも理由だろう。ドコモは2010年、ソニー・エリクソンの「XPERIA X10」を筆頭に、魅力的なスマートフォンを獲得できる可能性が高い。その際に、料金プランや販売施策において、iPhone並みの優遇や厚遇ができるか。ここがドコモにとって試金石になりそうだ。
 一方で、ドコモの今後に不安があるとすると、長期的・大型の将来投資は充実している反面、短期的な店頭競争でのトレンド変化への対応力がやや弱いと感じるところだ。とりわけそれを強く感じるのがデータ通信端末での競争で、イー・モバイルの「Pocket WiFi」のような製品をいち早く出せなかったところに、ドコモのフットワークの悪さが垣間見える。非携帯電話のデータ通信端末市場は2010年にさらに広がる見込みであり、従来型の携帯電話のようなオーダーメイド型の製品だけでなく、既存の端末を組み合わせた形の商品やサービスも続々と出てくるだろう。ここでは店頭トレンドを先読みする力と、商品化に向けた決断と行動の速さが求められるのだが、それがドコモには乏しいのだ。
現実路線で建て直し――しかし課題も残るau
 2009年、auの大きなテーマは「競争体制の建て直し」だった。
 端末の共通プラットフォーム「KCP+」の導入でつまずき、ドコモ追随路線とソフトバンクモバイルの攻勢でキャリアとしての個性と競争優位性を損ない、市場流動性低下と端末販売不況によって旗下の端末メーカーが経営不振や撤退の憂き目にあう。2009年初めのauは、これまで好調だった要因がすべて裏目に出るという満身創痍の状況だった。しかし、この1年の努力で、その状況はずいぶんと改善した。
 まず、懸案だった端末ラインアップだが、KCP+の成熟と不評だったUIの見直しが進み、ひと頃に比べるとかなりマシになった。特に2009年の冬モデル以降はUIの改善が進み、使いにくさはかなり解消されている。また他キャリアに比べてラインアップ数を絞ったことや、KCP+導入によるコスト削減効果も生まれて、流通在庫の圧縮や端末調達コストの低減に成功した。実際、この冬商戦では「最新モデルでもミドルクラス端末は新規契約で1万円以下」という価格を実現。新販売モデル以降、端末価格の割高感を覚えている消費者に、“新モデルの割安感”でアピールしている。
 一方、キャリアとしての競争力向上では、今年8月に導入した「指定通話定額(ガンガントーク)」と、11月から投入した「ガンガンメール」により、コミュニケーションの割安感を訴求。両者は主婦層や学生層の利用スタイルに合致した割引サービスとして、効果を発揮している。
 このように端末と料金プランにおいて、auのテコ入れは“現実路線”で進んでおり、実際の効果も出はじめている。しかし、その一方で、auにはいまだ解消されていない弱点や課題も残されている。
 その中でも代表的なものが、スマートフォン分野の出遅れだろう。KDDIでは2009年になっても「スマートフォンはまだ早い」(KDDIの小野寺正社長)という姿勢を貫いており、市場規模が拡大してから本格参入する方針だ。実際の販売台数で見れば、確かに国内スマートフォン市場はiPhone効果をプラスしても従来型の携帯電話よりも小さい。「ドコモみたいにムダ弾は撃てない。そんな余裕はない」(KDDI幹部)という堅実路線のKDDIにとって、手を出しにくい領域というのは理解できなくはない。しかし、昨年のiPhone 3G登場以降、スマートフォンは市場規模こそ小さいものの、モバイルでのコンテンツサービスや新ビジネスにおける影響力・存在感が急速に拡大している。iPhoneがないのはしかたないにしても、コンシューマー向けのスマートフォンがまったくないという現状は、auがモバイルインターネットの次世代トレンドに乗り遅れてしまうリスクになっている。auはいち早くコンシューマー向けのスマートフォンを市場投入し、それを積極的に後押しして育てる必要があるだろう。
iPhone効果とともに、問題も見え始めたソフトバンク
 ソフトバンクモバイルにとって2009年は、「iPhoneの年」だったといってもいいだろう。さまざまなキャンペーンの効果もあり、2009年前半から販売が伸び始めたiPhoneは、夏のiPhone 3GS投入によって人気が一般層にまで波及。都市部では女性ユーザーも増え始め、スマートフォンとして初めて“一般ユーザーも使っている”モデルになった。
 このブレイクは、iPhoneそのものの魅力が高く、さらにiPhoneのアプリやアクサリーの増加など、利用環境が整ってきた効果ももちろんあるが、ソフトバンクモバイルが料金プランや販売施策で異例ともいえる厚遇をしたからという理由も少なからず影響している。
 しかし、その一方で、同社の「iPhone頼み」ともいえる現状は、通信インフラの負担増大や事業バランスの悪化というリスクにもつながっている。
 とりわけ深刻なのが、iPhoneによるインフラ負担の増大だ。
 周知のとおりiPhoneは従来型の携帯電話よりもデータ通信利用量が多く、PC向けデータ通信サービス並みにインフラに負担をかける。さらにiPhoneの販売は著しく都市部に偏在しており、実際の販売台数以上に局所的なインフラ負担の増大が起きるのだ。“通信インフラの利用量を平準化し、効率よく収益化する”という通信キャリアの常識からすると、今のiPhoneの売れ方は「時限爆弾を抱え込むようなもの。通信品質の維持からすると悪夢のような状態」(キャリアの設備担当関係者)なのだ。
 ソフトバンクモバイルは今年、スマートフォンだけでなく従来型の携帯電話でも無線LAN(Wi-Fi)利用を促し、一方でユーザーの速度制限にも踏み込むなど、インフラ負担の軽減に腐心している。しかし、来年もiPhoneの勢いが止まらず、さらに販売数が伸びることが予想される中で、これらの施策は焼け石に水だろう。抜本的な対策は「3Gインフラの増強」しかない。それも通信品質を重視し、コストをかけて行う骨太のインフラ投資だ。
 それができなければ来年、iPhoneは一転してソフトバンクモバイルの重荷になることすら考えられる。またAppleにとっても、3Gインフラの逼迫問題・通信速度の低下がiPhoneのユーザビリティとブランドを損なう「ソフトバンク・リスク」になりかねない。繰り返しになるが、今年のiPhone好調を今後の追い風にできるかどうかの鍵は、3Gインフラの増強にかかっている。
 ソフトバンクモバイルにとって2010年は、今年以上に舵取りの難しい1年になるだろう。iPhone獲得にいち早く動いたように、同社の次世代のトレンドをつかむ能力は高い。CM大量投入による空中戦や、家電量販店での店頭キャンペーン競争といった地上戦も巧みだ。しかし、来年ソフトバンクモバイルが直面する課題は、「インフラ増強がきちんとできるか」「地方でのエリア拡充とマーケティングがしっかりできるか」「中庸なユーザー向けのサービスやサポート体制を強化できるか」といった地道さが求められるものばかりである。2006年の携帯電話事業参入から3年あまり。ここまで急速に成長してきたソフトバンクモバイルにとって、2010年はキャリアとしての基礎体力とユーザーからの信頼が得られるかどうかが試される1年になりそうだ。
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