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有料ゲーム危機の時代 iPhoneアプリは「ゼロ化」の法則に立ち向かえるか <COLUMN>
 米Wired誌編集長のクリス・アンダーソン氏が近著「Free: The Future of a Radical Price(フリー:極端な価格の未来)」について語った6月15日の講演が話題を呼んでいる。アンダーソン氏はWeb2.0の重要なキーワードである「ロングテール」を提唱したことで知られるが、今回のキーワードは「ゼロ」である。
■デジタル化できるモノはすべて無料になる
 アンダーソン氏の講演内容を要約すると、(1)競争が激しい市場では価格は限界ぎりぎりまで落ちていく、(2)インターネットの世界では流通にかかるコストを限りなく「ゼロ」にできる、(3)そのため、価格の限界点は「ゼロ」になる――ということになる。
 これにより、「デジタル化できるすべてのものは、無料の競合商品に直面することになるだろう。競争のなかでは、競合相手が行う前に無料にしなければならなくなる」とショッキングな未来像を述べている。
 前回の本コラム「PSPに迫る勢い iPhoneが変えるゲーム市場のルール」では、「iPhone」の「App Store」でアプリやコンテンツの価格を高く維持し収益を上げることが、いかに難しいかを解説した。しかし、アンダーソン氏の考えに立てば、見方はまったく逆になる。App Storeのアプリはデジタルな商品にもかかわらず、「ゼロ」にまで落ちることなく平均価格1.39ドルを維持できているのだ。
 インターネット上には無料で公開されているゲームがすでに膨大にある。それが実際にどのくらいあり、現在のコンシューマー向けゲームの売り上げにどの程度影響しているのかを示すデータはいまのところない。しかし、影響を与えていることは間違いない。
 例えば、ユーザーが自由に投稿できるパソコン向けFlashゲームサイト「Kongregate」は2006年6月にスタートし、登録ゲームが1万3840本に達している。調査会社Competeによると、Kongregateの現在のユーザー数は76万人で、昨年5月時点の32万人から1年で倍増している。無料ゲームで遊んでいるユーザーがそれだけいるということだ。
 こうしたサイトは広告モデルで運用されており、個々のゲームの開発者には基本的に収入は分配されない。人気が出てコンシューマー機やパソコン向けタイトルに移植されれば、開発者も収益を得られるだろうがその可能性は低い。それでも多数のゲームが無料でインターネット上に公開されるのは、もちろん、お金が目的の人ばかりではないからだ。
 インターネット上に無料公開されるゲームは、今後さらに増えていくだろう。有料のゲームで利益を得る従来の市場はそれに伴って狭くなっていくと考えざるを得ない。
■App Storeがゼロ化に対抗できる理由
 では、なぜApp Storeがゼロ化を免れているかといえば、iPhoneがタッチパネル式の独自デバイスであることが大きい。通常のパソコンとはハード仕様が異なり、それが参入障壁になっていると考えることができる。
 実際、App Storeで人気が出るのは「iPhone特有のハードやインターフェースを利用したゲーム」といわれる。他のハードとの差異化が、ゼロ化の流れに対抗する要素になっている。
 これは、任天堂の「ニンテンドーDS」にもいえることで、DS独自の2画面やタッチデバイスといったハード仕様に合わせて開発したゲームは、他のハードに展開するのが難しい。ゲーム会社にとっては扱いにくい困ったハードだが、インターネット上の無料ゲームへの対抗手段にもなっている。
 今後、携帯型ゲーム機(携帯電話も含む)には、様々な独自デバイスが搭載されていくことになるだろう。そうしたデバイス間であえて互換性を持たせない戦略を採るケースも増加すると予想される。そうしなければ、インターネットからのゼロ化の津波に飲み込まれてしまうからだ。パソコン上で無料で体験できるようなアプリにお金を払ってもらうのは難しい。
 App Storeは、ゼロ化の圧力に対抗するためのさらなる手段を導入した。6月に公開した「iPhone」の最新版OSで使えるようになった「In-App Purchase」(アプリ内課金)である。これはApp Storeで販売したアプリをメジャーアップデートした際に追加課金したり、アイテム課金をしたりするための仕組みだ。App Storeで決済するので、少額課金がしやすい。
■アンダーソン氏が提唱する5つのルール
 アンダーソン氏は、ゼロ化への対抗策として5つのルールを提案している。
1.最善のモデルは有料コンテンツと無料コンテンツをミックスすること
2.よそでも真似できるようなものを、有料限定にしてお金を取ることはできない
3.サイトの中で最も人気のあるコンテンツで料金を取ってはいけない
4.有料コンテンツはニッチに訴求しなければならない
5.ニッチは狭ければ狭いほどよい
 この5つの条件を満たし示唆に富むケースとして、韓国ネクソンの大規模ロールプレイングゲーム「メイプルストーリー」のアイテム課金モデルを紹介している。
 メイプルストーリーは、05年時点で北米で350万人もの登録ユーザーを集めている。ユーザーのプレー料金は基本的には無料で、ゲーム内の様々なアイテムを有料で提供している。プリペイドカードをコンビニで販売して決済を簡単にしたことで、10代に人気が出た。北米でゲーム内のアイテム課金を本格的に成功させた初のケースといわれている。
 アンダーソン氏はユーザー行動の観察から、ユーザーは「心理的に自由(フリー)」になるために、次のようなことにお金を払うと述べている。
1.時間を節約するために、お金を払う
2.リスクを減らすために、お金を払う
3.愛着を感じるもののために、お金を払う
4.ステイタスを得るために、お金を払う
5.何かを作るために、お金を払う
 これらから得られる教訓は比較的はっきりしている。仮に小さなゲームアプリであれ、ユーザーのニッチな要望を満たすような要素を組み合わせて入れ込んでおくべき、ということである。
 また、プラットフォーム化を目指せる余地を戦略的に持たせるべきでもある。何をもってプラットフォームというかは定義が難しいが、今までのようにハードウエアベンダーだけがプラットフォームホルダーなのではない。ソフト単体でも十分にプラットフォームになる。
 多様な動機を持ったユーザーが、特定のアプリを通じてコミュニケーションし、コミュニティーを形成していく仕掛けはすべてプラットフォームといえる。上記の3~5は、まさに他のユーザーを意識することで行われる行動である。
 プラットフォームになる条件は明白だ。人数を集め、多くの人が継続的に使い続けてくれるかどうかにかかっている。ゲーム的なおもしろさは、自分と他人との相対的な比較によって生まれることが多く、それが人を熱中させる。そのためには参加してくれる人が多ければ多いほどいい。
 韓国のアイテム課金ゲームの場合でも、実際にお金を支払うユーザーは全体の10%以下で、5%程度まで下がる場合もある。しかし、5%が払うそのニッチ性こそが、ゼロ化の流れが及ばない領域であると考えることができる。
■プラットフォーム化を狙うiPhoneアプリの登場
 そうした戦略を取ろうとしているベンチャーがすでに現れている。
 例えば、米スタンフォード大学のゲエ・ワン博士が設立した米SonicMuleだ。昨年、iPhoneアプリの「Ocarina」が日本でも話題になった。オカリナの音をネット上にアップロードしたり、世界のどこかで吹かれた演奏データを世界地図上に表示したりできる音楽アプリだ。
 これをよりソーシャルにしてiPhoneの最新版OS向けに開発したのが、「Leaf Trombone: World Stage」だ。トロンボーンを題材にした音楽ゲームだが、ソーシャルネットワークの仕組みを強く意識している。世界のどこかの誰かと一緒にセッションしたり、人の演奏を評価したりするシステムが組み込まれている。
 現在、Leaf Trombone: World Stageは115円で販売されている。今後、同社の他のアプリと連動させることで、ソーシャルメディアとしての性質を高め、全体で収益を上げていく計画と考えられる。
 iPhone向けゲームのアイテム課金で成功したケースはまだないが、プラットフォーム化を狙うゲームはすぐに出てくるだろう。パソコンのオンラインゲームで成功したアイテム課金モデルには参考にできる点がたくさんある。そこに、iPhoneならではの「何か」をどう組み合わせるかで、ゼロ化に立ち向かうのである。



【東京新聞社説】
週のはじめに考える 冷戦終結20年と日本
 冷戦が終わって二十年。「戦争の世紀」といわれた二十世紀に代わり「平和の配当」が期待された時期もありました。今また一条の光が見えますが-。
 ふた昔前のこと。ベルリンの壁の跡地で東ドイツの少年たちが色とりどりの壁の破片を観光客に売っていました。大が三ドル、小が二ドル。そんな光景を眺めながら「何が壁を突き崩したのだろう」と考えました。その疑問にずばり答えてくれたのが当時の東独大使・新井弘一氏でした。「東ドイツ国民はマルクス主義を捨ててマルク主義に走っているのです」。西独の通貨マルクの魅力がイデオロギーに勝った結果だというのです。
◆期待外れ「平和の配当」
 四十年余にわたる冷戦構造が崩れたとき私たちは「平和の配当」に胸を膨らませました。当時、日本はバブル経済の絶頂期で、一九八九年末の株価は三万八九一五円と史上最高値。年が明ければ「四万円相場」到来と市場関係者は色めき立ちました。誕生直後の連合は賃上げ要求とともに政治改革を掲げました。
 だが日本人の夢は、すぐに砕かれます。翌九〇年には株価が二万円台に落ち、九一年には湾岸戦争勃発(ぼっぱつ)です。「平和の配当」どころか、欧米からは日本が湾岸戦争への資金援助だけでなく、「ショー・ザ・フラッグ」(日の丸を見せろ)、つまり憲法で禁止されてきた自衛隊の海外派遣を求める声が高まりました。
 戦後長いこと、わが国の防衛の基本をなしてきた日米安保体制は冷戦終結後の九六年、大きな転機を迎えます。同年四月の橋本龍太郎首相とクリントン米大統領との間で取り交わされた「日米安全保障共同宣言」では「アジア太平洋地域」という表現が十二カ所も登場します。この時点から日米安保は「アジア太平洋安保」に拡大したといってもいいでしょう。
 九一年、旧ソ連邦の解体でイデオロギー上の「自由主義」対「社会主義」、政治上の「議会制民主主義」対「プロレタリア独裁」、経済的な「市場経済」対「計画経済」、軍事上の「北大西洋条約機構」対「ワルシャワ条約機構」といった対立の構図が消え、西側先進国のシステムが優位に立ちました。だが米国では〇一年のブッシュ政権後、北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と決めつけ、十字軍を気取ったネオコン(新保守主義)主導で新冷戦状況をつくり出したのです。
 オバマ米大統領は、こうしたエスノセントリズム(自国中心主義)とは決別した国際協調路線を掲げています。なかでも四月のプラハ演説は「核兵器を使った唯一の国として行動する道義的責任がある」「米国は核兵器のない世界を目指す」と核廃絶への決意を披歴し、世界の注目を集めました。広島、長崎の被爆者は「一筋の光が差した」と、二十年前に冷戦が終結したときに抱いたのと同様な「平和の配当」に対する期待感を表明しています。
 冷戦政策の設計者といわれる故ジョージ・ケナン氏(米外交官、政治学者)が旧ソ連対策として進言したキーワードは「封じ込め」でした。ハンガリーとオーストリアとの国境につくられた鉄条網(鉄のカーテン)も、ドイツを東西に切り裂いたベルリンの壁も、まさしく「封じ込め」でした。
◆「冷戦後」の設計図を
 「封じ込め」の反対は「開放」であり、「交流」であり、「協調」です。日本は、その方向でポスト冷戦の外交・安保政策を確立し、平和構築への強いメッセージを世界に発すべきです。
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